2007年04月16日

家庭にゆとりと支えを

4月16日 信濃毎日新聞
 いまの親はあいさつもできない。善悪を教えられない…。こんな批判から、親を「教育」しようといった動きが広がりつつある。

 改定された教育基本法に「家庭教育」の条項が加わった。保護者が子どもの教育に責任を持つとし、国や自治体に親支援の施策を求めている。政府の教育再生会議も、子育てを学ぶ「親学」を提唱する。

 陰湿ないじめを繰り返す。集団のルールを守れない。こんな子どもの姿を見れば、家庭の教育力を高めねばとの思いは分からないではない。

 だが、国が目指している方向は、こんな例えができそうだ。

 池の水が干上がってしまったために泳げなくなったコイを見て、近ごろのコイは泳ぐ力さえないと嘆いた飼い主が、コイにひれの振り方を教えている−。

 財団法人日本女性学習財団がつくった子育て支援のテキスト「むすんでひらいて編みなおして」の中にある表現だ。コイに泳ぎを教えても、水がなくては話にならない。コイを親、と考えれば水にあたるのは、ゆとりと周囲の支えだろう。

   <精神的負担は大きく>

 こども未来財団が2005年に行った調査では、子育てで最も負担に感じるのは「しつけや接し方が適切にできているか」で、二番目が「子どもにかかる養育費」だった。

 精神的な負担が大きいのは、幼児期ばかりではない。教育や進学にかかわって、“立派な子ども”を育てるパーフェクトマザーを目指す層が広がりつつある。その負担感が少子化にも影響している、と東京大学の本田由紀・助教授が著書「多元化する『能力』と日本社会」(NTT出版)で指摘している。

 大学全入時代を迎えても、受験競争は過熱している。中学受験を目指し、小学校から塾通いが広がる。一方で経済的にゆとりがなく、教育には関心が薄い家庭が増えている。

 家庭の“教育力”の差が広がりつつある中で、親の責任ばかりを問うとどうなるか−。かえって格差が広がることは想像に難くない。

 教育の立て直しで家庭のあり方を問うならば、まず必要なのは、親が家庭で過ごす時間を増やすことだ。

 日本の父親は忙しすぎる。2年前に国立女性教育会館が行った調査によると、米国、フランス、タイなど6カ国で、子どもと過ごす時間が最も短いのは韓国。次いで日本だった。食事の世話をする日本の父親は10人に1人で、最も低い割合だ。

 母親も忙しい。子どもが成長すれば教育費のために働きに出る人が増える。パートや派遣など労働形態は多様化し、深夜や早朝に女性が働く姿も珍しくなくなった。

 家にいる時間が短ければ、しつけや教育に向ける余裕はない。いま必要なのは、企業も巻き込んで仕事と生活のバランスが取れる働き方を進めることだ。即効性を求めて「親学」を振りかざしても、いい結果は期待できないだろう。

   <親を責めるだけでなく>

 加えて、子育て中の親を支える仕組みがほしい。これだけ少子化が社会問題となっても、子どもに向けられる目は冷たいと感じる親は少なくない。どこにも相談できず、孤立感を強める親も増えている。

 親子を支えるにはどうしたらいいのか。参考になるのは、昨年6月に発足したNPO法人「軽井沢教育ネットワーク」の取り組みだ。

 メンバーは小中学校、高校のPTA役員を務めた親や、教育関係者ら約30人。子どもが学校を離れても、地域で教育にかかわりたいと集まった。

 中学校の校門前で生徒たちの声を聞いたり、親を対象にしたアンケート調査を行って、どういったかかわりが求められているかを探る。教育相談や、希望する生徒に補習を行うといった構想もある。

 「この地域は家業に忙しい家庭が多い。何でも学校任せでは、先生の負担が多すぎる。地域でサポートする必要がある」と、理事長の土屋好生さんは思っている。

 かつて日本の農村では、親が農作業に忙しく、子どもは祖父母に育てられたり、地域の人の支えで一人前になった。主婦として子どもの教育に専念する母親が増えたのは、戦後の高度経済成長期を迎えてからのことだ。

   <地域の力も使って>

 女性の働く環境や家族を取り巻く社会が変容したいま、あらたな子どもを支える地域の仕組みを作る時期に来ているのではないか。何よりも、子どもを温かく見守り、時には説教する大人が増えてほしい。

 もちろん、親が今のままでいいというわけではない。コミュニケーションがうまく取れない、基本的な生活習慣を教えられないといった批判を受けて、あらためて親はわが身を正す必要がある。わが子さえ良ければいい、といった姿勢も見直すべきだろう。

 このまま安倍政権の教育改革が進むと、国が望むしつけ、あるべき家庭の姿が強要されかねない。そんな息苦しさの中では、子どもを産みたい人は減る。教育の立て直しもおぼつかない。

posted by 受験オタク at 19:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 中学受験事情
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